lunatrium/fabula cella
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【2009/01/08 10:16】
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サング・マイ・ラング
「俺ホントにヒかれるのしか歌わないよ」
「あーいいよ、俺も似たようなもんだから」
信二とマサはやる気満々だが、正直俺の隣にいる田上の趣味は
そこらの高校生バリバリだから、あんまりコアなロックは止めてやって欲しい。
あとダンスっぽいR&Bとかも止めてやって欲しい。分かんないだろうから。
しかも二人とも上手いから始末に置けない。そして田上は下手だ。
俺はというと、何を歌えばいいやら分からず、メニューばかり見ている。
「あっ、じゃあ俺歌っていい?」
「おー行け、どんどん行け」
マサは煽る。彼は洋楽のUの欄を見漁っているから、
きっと放っておけばそのうちアッシャーを歌いだすだろう。
「ユー・ドント・ハフ・トゥ・コールには早いな」
…案の定。
田上の曲が入力されると、信二もリモコンを持った。
俺はしばらくしてから歌おう、と思ってドリンクの注文を始めた。
「何飲む?」
「メロンソーダ!」
「ウーロン茶」
「ジントニック」
「…信二、制服だからね。今君が着てんのはね」
「じゃあコーラで」
俺は白い受話器をとって、やたら高い声を出す店員に注文をした。
途中で田上の曲の前奏が始まった。
やっぱりそこらへんか、と予想はついていたので然程ダメージはない。
信二とマサに至っては反応なし。冷たい。
俺がちょっとおざなりな拍手をすると、田上ははしゃいだ。
田上の熱唱が終わるとちょうど店員が入ってきて、ドリンクを置いていく。
田上は楽しそうにうまそうにメロンソーダを飲む。
信二はコーラを一口飲んで、画面を見た。
「LOST IN TIMEかあ。イイね」
俺が言うと信二は「歌うか?」と誘ってくれたが、俺は笑って断った。
そこで前奏が始まったので、信二は残念そうな顔をあまり見せずに画面に向きなおした。
「ヒカリ」は、好きな曲だ。信二はバンドマンでベース弾きだ。
カラオケはほとんど中毒みたいなもので、ひどいときは週一のペースで
付き合わされた。俺はこいつの選曲と声が好きで、嫌な顔をせず付き合った。
田上が、若干ヒいている。しょうがない。上手いから。
「いいねえ、海北の詞は」
そう言って信二はマイクのスイッチを切った。
「孝、歌わねえの?」
マサがリモコンを操作しながら言うが、俺は、まだね、と断る。
マサはR&B、信二はロック、田上は流行りの曲。
俺はそのどれも好きで、動きづらい。
「好きなの歌えばいいじゃん、俺みたく」
画面を見ると「ビート・イット」だった。
「判決記念!いちファンだから出来る楽しみ方」
立ち上がったマサは本気だ。本気の目だ。
…好きな歌、歌って楽しい歌。
確かにある。なら、それでいいのかもしれない。
俺は、「ウォーク・ジス・ウェイ」の番号を探した。
マサは歌いだしに備えて、すう、と息を吸った。
俺も肺を使おう。
【2005/06/21 11:02】
短編モノ
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spined out life
明日は大嫌いな古文の授業があって、食堂のランチは和風ハンバーグセット。
バイトは可愛いなぁと思い始めてる子がホールに入って、
口は厳しいけど後輩思いの2コ上の先輩とのシフト。
今日はまだ終わらないけれど、俺は明日を想ってみる。
今日を思えば、これから竹下通りに出て古着屋巡り。
一枚390円でTシャツを買い漁ろうって寸法。
まあそれもこれも、友達と落ち合ってからだけれど。
昨日、今日、明日と繋がる恒久機関。
俺はその中、回る。
…いつまで?
回り回ってここに落ちて、俺は、いつまでここに、
…いつからここに?
「ゴメン、待ったぁ?」
いや、今来たとこ。
そう、今来たところだ。
これからどこに行こう。
【2005/06/11 11:36】
短編モノ
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cake
もう少しで明日になるのに、私には太陽が匂わない。
「焦っちゃいけないよ」
藤沢くんは私を嗜めた。
「俺が君ぐらいの歳にはもう判ったものだけど、君はまだ起きて間もない」
彼の言うことに間違いは無いけれど、私が自分に求めるスキルは、もっと
大きくて、それを今すぐにでも手に入れてやりたい。だから焦る。
「そんな頭じゃ、日の出の匂いは嗅ぎ取れないよ。もう少し、眼を
覚ましてからにしなさい。君には充分、力はある」
「藤沢くんは、もう判る?匂い」
藤沢くんは、遠慮がちにニッコリ笑って頷いた。私も微笑んでしまう。
まだ青みが差さない夜空に、彼の笑顔は少し明るすぎる。
「今日もバイト、入ってるんだろう?もう帰って休みなさい」
「藤沢くんだって今日出勤でしょう。お互い様」
バイトは夜からだ。朝に帰ったって問題は無い。
それに誰もいないアパートに帰るには、今日は少し寂しい。
藤沢くんは図らずも、寂しさだけは絶対に私に感じさせない。
「ねえ」
私はちょっと疲れた目を瞑った。
「どんな匂いなの?太陽の―――しかも日の出の匂いって」
藤沢くんは、すう、と深く息を吸った。
「そうだな、本当に薄っぺらくて、それでいてしつこく甘い。
これだ、って判るといっぺんに鼻全体に匂いが広がるんだ。
ホットケーキみたいに、甘くって、くどい匂い」
俺はホットケーキは好きじゃないけど、匂いだけは好きなんだ、と
彼は小学六年生の男の子みたいに、ちょっとませた笑い方をした。
実際は、あと数ヶ月で未成年じゃなくなる、私から見たら気の毒な年齢。
一つ上の人。私より、歳も何もかも一つ上の人だ。
最近ひとがいなくなったこの工事現場の土はからからで、
私がいくら鼻を利かせても香るのは、子供のころ
男の子と走り回って覚えた匂いだけだった。ホットケーキはどこにも無い。
「藤沢くん」
彼は私の後ろにいる。
「もし私が起きなかったら、あなた私を相手にした?」
もし「起きなかったら」、私は彼と話したりしなかったのだろうか。
「さあ」
素っ気無いなあ、と私は微笑んだ。
上を見ると空は少し青くなっていた。
甘い匂いは、またいつか。
藤沢くんにそう言うと、彼は私の頭を撫でた。
「またいつか」
彼との夜も、朝も、またいつか。
【2005/06/10 21:52】
短編モノ
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