lunatrium/fabula cella
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【2009/01/08 11:25】
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エレクトリック・マーシー
僕はずっと歩いていた。始発の電車に乗ってどこかに行こうとしていた。
けれどどこに行こうと思っていたか忘れた。
だから歩き出してみた。
いろいろな人とすれ違ったが、僕はそのうちの誰も知らなかったし、
彼らの中で僕を知っている人もいなかった。いたかもしれない。
僕は誰とも話さず、何も摂らず、道と障害物だけを見て歩いた。
何歩歩いただろうと思って、僕は空を見た。
―――歩き始めたころは真っ青だったのに!
空はもう、太陽を送って白くなり始めていた。
そうか、ここだ!僕が来たかったのは!この空だ!
笑ってみたが違う気はしていた。栄えた町のネオンが綺麗で、違和感は失せた。
【2005/07/31 10:32】
短編モノ
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近い花
そのマンションの一室は日当たりが良かった。活字は光に映えた。
彼が手に持った文庫本の頁がめくれてゆくのは、風だけのせいではなかった。
一文を探して、彼の指はせわしく頁を撫で、抓み、動かした。
目の前にあるさぼてんは、少しずつ彼の息を感じ取って湿っていった。
そしてほんの少しだけ、大きくなった。
真っ白な壁にかけられた小振りな時計は、秒針の音を余さず響かせる。
彼は開け放した窓の前でその音を聴く。頁が立てる音はそれによく溶けた。
「待っていて」
さぼてんに呟いた。変わらず、手は速い。
ベッドと、時計と、さぼてんしか無い部屋。あとは彼がいるだけの部屋。
彼は目的の文を探し当て、ゆっくりと口に出した。
「―――空よ。お前の散らすのは、白い、しいろい、綿の列」
さぼてんはそのうたの一行を聴いた。
彼は本を右手で傍らに置いて、そのまま表紙を撫で回した。
ふとその手を止めると、空いた左手で、さぼてんを力無く包んだ。
鋭く小さな痛みが彼の手のひらを覆って離さなかった。
ゆっくりと彼は手を離し、立ち上がった。さぼてんを鉢ごとベッドに置いた。
固いベッドは、鉢を倒さなかった。開いた窓を見据えて、彼はベランダに出た。
空を仰いだ。ひとつ飛行機が、見えなくなるところだった。
彼は手すりを跨いだ。
空よ。お前の散らすのは、白い、しいろい、綿の列。
彼はそう詠った。
【2005/07/23 16:53】
短編モノ
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