lunatrium/fabula cella
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  • サプライズ
    ふと気付くと地面が無かった。普段生活していて僕はめったに驚きはしないが、正直今回ばかりは声を出して驚いた。驚愕した。けれどそこのところは、冷静を身上とする僕だ。その驚きに対して少しむきになって、頭を回転させ始めた。
    そりゃあ見下ろしてみて、地面なんて無いさ。でも待てよ、僕はしっかり立ってるじゃないか。いや、本当に立っているかは分からないぞ。浮遊してるのかもしれない。足の裏の感覚を研ぎ澄ませるんだ、僕はどうやってこんな体勢になってるんだ―――?

    真っ暗な視界に、がたんっ、という音が明滅した。めったに驚きはしない僕はまた驚いた。なんだ、どうして真っ暗になってるんだ。いや、目をつぶっていただけだ。ふと周りを見てみると同じような服装の人間がぞろぞろ座っている。先程の浮遊感は無い。遅れて、くぐもった笑い声に囲まれて、僕は逃げ場をなくした。なんだ、学校じゃないか。そりゃそうだ、さっきの地面が無いときの記憶の、一つ手前の記憶を探ってみたら数学の教師の顔が浮かんだ。数学は嫌いなんだ。寝るに相応しい時間なんだ。
    後ろに座っている友人に、背中を押された。笑いに囲まれて背中を押されて、これじゃ連行される罪人だ。授業中に寝るのは罪なのか。
    「何びくっとしてんだよぉ」
    うるさい。お前が寝てろ。

    学食に食券を買いにいく間中、そのことでからかわれた。僕は姿勢を悪くして寝ると、かならずびくりとするのだ。授業中に寝るのは月に一回あればいいくらいだが、機会をあまさずびくりとする。持ち上がった足で机を蹴り上げる。驚かれるし僕も驚く。
    でもめったに驚かない。僕はめったに驚かないのだ。そのときぐらいしか驚かない。
    学食に入って、売り場の列に並んだ。早く来たおかげで、目当ての天ぷらそばをいち早く買えた。外に出て、自販機でブラックコーヒーを買おうとすると、同じクラスの女子がいた。果汁三十パーセントのオレンジジュースを買っていた。甘ったるくて嫌いなやつだ。
    「おっ、居眠り野郎じゃん!」
    うるさいって。歯並びのいい笑顔で僕に言った。
    「あたしも寝てるときね、結構びくっとすんの!」
    どきりとした。目がゆっくり細まる様と、少し覗いた歯に、強くどきりとしてしまった。返答に困る。そ、そう。なんてどもりながら答えると笑われた。どうせ次の授業で会うので、別れの言葉は無い。脇にいた友人と、教室に帰っていった。
    意識したことの無い人間が、目の中に飛び込んでくる時の驚きといったらない。
    恋愛感情なら、なおのこと驚く。

    【2006/01/08 21:53】 短編モノ | TRACKBACK(-) | COMMENT(0) |