lunatrium/fabula cella
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【2009/01/08 09:35】
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暗がりの夢
その夜、ぼくは平静を失っていた。生活の中にある瑣末な不安が鬱積し、自分の心内が軋み始めるような感覚が生まれ、眠気は生温くなり覚醒が続いた。
布団に篭もっても一向に、睡眠に没することが出来なかった。ただ時間を過ごすだけで疲弊する昼の睡魔の姿は、闇の中では認知出来ない。本でも読もうかとも考えるが、電灯を点けるのが億劫で、寝返りを繰り返す。その寝返りという運動自体が覚醒に繋がり、ぼくは自らの体温が移った寝間着や寝具に嫌悪感を覚え、一度半身を起こした。
布団の中で身もだえしたせいで外気が冷たく感じる。日当たりの良いこの部屋は、少し日中の熱を蓄えている。
(きっと今日の昼、雲が多かったならもっと涼しかったのだろう)
眼球は闇に浸かった部屋を映す。物は輪郭を残して消え失せたかのようだ。ぼくもあのように、闇に沈み込むのだと枕に頭を据え、目を瞑った。
何十分もの「何も考えないように努める考え」への没頭で、漸くぼくは眠りを捉えられたようだった。
わざと寝返りも堪え、思考の動きも抑えつけたせいだろうか。その時見た夢はとても活動的だった。
夢の舞台は、幼稚園の時分によく遊んだ空き地だった。でこぼこした地面は球技には向かず、その頃のぼくたちは鬼ごっこなど単純な遊びに興じた。ぼくはそこで体を走らせている。周りを見ると色々な年頃の人間が走っている。幼稚園児や小学生――小学生と一口に言っても、随分ばらつきが見られる――、中学生、高校生と、成人する手前の人間が何人も走っている。視界の端は白く曖昧で、夢が常に備える「奥行き」を表していた。その先にあるものなど見えることはない、夢としての境界…現実ではないという穏やかな手がかり。
視野という意識の世界を、光がぼやかしている。ぼくはその中をひた走ることで、足元の雑草を後ろに飛ばしている錯覚に陥る。自分と同じように走る人間をじっと見つめていると、彼らは皆ぼく自身であると気付いた。年齢だけを違えたぼくは群れを成して、一つの方向を定めて走っていく。どこに向かって走っているのだろう、そして視野の主体となっている自分は一体何歳の自分なのだろう、という二つの疑問が思考を占めた。
ぼくが立ち止まると、周りの「ぼく」も足を止めた。筋肉に疲れは感じられないし苦しくもないが、呼吸は忙しいままだった。
そのことを不思議に思った途端、息が落ち着いてくる、と感じた。ぼくはふと目を閉じた。夢の中は眩しく、実世界が闇に充ちているとは思えない。閉じた瞼で光を感じていると、視野は不完全な闇を映し出す。「ぼくたち」は皆同じように、光が混ざった闇を見ているのだと思うと、ぼくの意識はどの「ぼく」に属しているのか分からなくなった。
それが、醒めた時の最も新しい記憶だった。その合間に別の夢を見たかもしれないが、記憶には無い。眩しさを感じる夢を見たせいで、起きた際の闇に順応しきれない。下半身に嫌な感触が纏わりついている。ぼくは生まれて初めて夢精していた。官能が全く無い夢を見て、一体何故?
【2006/11/12 14:07】
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